被疑者

犯罪を犯したと疑われ捜査下にあり、公訴されていない者
容疑から転送)

被疑者(ひぎしゃ)とは、捜査機関犯罪の嫌疑をかけられており、かつ公訴を提起されていない者。容疑者(ようぎしゃ)とほぼ同じ意味だが、被疑者は日本法上の法令用語として、容疑者は犯罪報道や小説を含めた一般的な用語として使用されることが多い。また、これら被疑者 /容疑者のうち、逮捕された者に対する報道上の呼称として氏名の後に容疑者を付ける用法もある。

法令用語としての被疑者と概念上区別をする必要のある場合にも、法令において「被疑者」ではなく「容疑者」という語が用いられることがある[注 1]

定義

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捜査機関によってある犯罪を犯したと疑われ捜査の対象となったが、起訴されていない者を被疑者という。起訴された後は、当該事件との関係においては被告人と呼ばれる。

被疑者が大日本帝国憲法下での法令用語として使われている一方、容疑者も同時期から推理小説などで使われてきた。広辞苑では以下のように説明されている。

被疑者 犯罪の嫌疑を受けた者でまだ起訴されない者。
容疑者 犯罪の嫌疑によって検事または司法警察から取調を受け、まだ公訴を提起されないもの。
『広辞苑』第1版(1955年)
被疑者 犯罪の嫌疑を受けた者でまだ起訴されない者。容疑者。
容疑者 犯罪の容疑を持たれている人。被疑者。
『広辞苑』第7版(2018年)

特に容疑者は「逮捕された者」とみられがちだが、法令用語としての被疑者は、逮捕・勾留による身体的拘束を受けているか否かを問わない。犯罪の嫌疑を受けて捜査の対象となっているのであれば、逮捕される前の者や逮捕されなかった者[注 2]も被疑者である。報道における容疑者はほとんどの場合は逮捕された者を報道する場合に使われるが、被疑者死亡や被疑者の病気などを理由に逮捕できなかった時にも「○○容疑者」と表記する場合もある。

被疑者の義務

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逮捕・勾留を受けている場合、取調受忍義務が実務の上ではあるとされている。

被疑者の権利

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被疑者は被疑者特有の権利を有する。当然ながら基本的人権を有するが、刑事訴訟法に基づいて一定の制限を受ける。

弁護人選任権
弁護人を選任する権利である。私選弁護人が原則であるが、今後、国選弁護人を選任することを求めることができるようになる。
国選弁護人選任請求権
国選弁護制度を参照
接見交通権
接見交通権を参照
その他の権利
被疑者も基本的人権を有し、その人権は合理的な理由なく妨げられてはならない。もっとも、被疑者であるために一般国民よりも広い、合理的な制限(強制捜査や逮捕・勾留など)が課せられうる。

無罪推定の原則(推定無罪)

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被疑者は捜査機関から犯罪を犯したとの嫌疑を受けているものの、被疑者には法的には無罪であるという推定が働いている。これを無罪推定の原則もしくは推定無罪という。しかし、現実の社会においては、被疑者とされた者は有罪であるとの誤った観念に基づく問題が発生することがある。有名な例では、ロス疑惑松本サリン事件と、その後のマスコミ報道に対する民事訴訟裁判がある。

日本の報道における「容疑者」の語について

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日本のマスメディアマスコミ)では一般的に、任意捜査の段階ではなく逮捕などの強制捜査の段階に至った者について、被疑者/容疑者を使用している。明治の初期以来、被疑者は実名呼び捨てであったが、1980年代半ばから末にかけて、被疑者/容疑者になった特定の個人に対して、その個人名の後に「容疑者」という呼称を付ける記述が広まり、その後も続いている。この時期に変革を迎えた理由としては下記が挙げられる[要出典]

  • 被疑者は無罪を推定されている立場であり、基本的人権の観点から呼び捨ては適正でないという意見が広がったこと
  • 呼び捨て報道訴訟があったこと
  • 80年代に戦後の裁判で冤罪により死刑判決を受けた人の再審が相次いで認められたこと
  • 刑事裁判を受ける人の「○○被告」表記がすでに広がっており、逮捕段階での呼び捨てと矛盾があること

1984年にNHKが「○○容疑者」呼称を開始。同年に産経新聞が「肩書き表記」を採用したが、「○○会社員」などはまだしも「○○無職」などの表記に違和感があったこともあって廃れた。その後、1989年11月に毎日新聞が「○○容疑者」表記をルール化したのを機に一気に全マスコミに広がった。被疑者の犯人視を防ぐための改革だったが、「○○容疑者とは言うが、あたかも容疑者=真犯人であるかのように、大々的に報道する傾向がある」と、呼び捨ての頃とあまり変わらない報道姿勢に対する批判も存在する[1]

逮捕されない場合、「容疑者」という肩書きを付けないことが一般的であり、例えば書類送検された場合、著名人であれば役職などの肩書きで報じられ、一般人であれば氏名が報じられないことが多い。しかし、被疑者側の事情で逮捕に至らなかった場合でも、被疑者の氏名を容疑者という肩書きをつけて報道することがある。一例として、第一生命多額詐取事件では、89歳の女性営業職員(存命)が詐欺容疑で書類送検されたところ、読売新聞は○○容疑者という肩書きで報じた(読売新聞2021年5月20日西部朝刊30面)。ほか、島根女子大生死体遺棄事件では、被疑者が死亡していたため逮捕されていないが、朝日新聞(朝日新聞2016年12月20日夕刊11面)、毎日新聞(毎日新聞2016年12月20日夕刊9面)、読売新聞(読売新聞2016年12月20日夕刊13面)、日本経済新聞(日本経済新聞2016年12月20日夕刊13面)は、いずれも〇〇容疑者と報道した。

「容疑者」「被疑者」以外の報道上の呼称

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前記の「名前の後ろに容疑者を付ける呼称」については報道機関によってルールがあり、1つの記事の中で2回目以降に実名を記載する場合などは「容疑者」の語は用いず、「さん」「氏」などの敬称や、職業上の肩書きなどを付けて報道することも可能である[2][3]

役職に絡んだ容疑で逮捕された場合でも肩書きを使うことが多い。2020年東京オリンピック・パラリンピックの贈収賄事件では、日本オリンピック委員会の元理事やスポンサー企業の元会長らをすべて「○○容疑者」と表記してしまうと分かりにくくなるため、新聞では初出のみ容疑者とし2回目からは元理事、元会長などの肩書きにしたメディアがあった。会社社長、役員、公務員警察官自治体職員など)などの被疑者・被告人に関して、最初に「会社社長の○○容疑者」と呼び、その後は「役職」をつけて報道することがしばしばみられる。

あるいは有名芸能人が軽微な犯罪の被疑者になったり、逮捕に至っていない場合などで、「〇〇メンバー」や「〇〇タレント」などの呼称を用いることがある[4]

なお、学校で使われる公民科教科書では、「~である人物を容疑者(または被疑者)と呼ぶ」などと、容疑者の文字は太字、被疑者の文字は細字のカッコ書きになっている[要出典]

 歴史 

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脚注

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注釈

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  1. ^ 例えば、出入国管理及び難民認定法においては、入国警備官において同法24条各号の一に該当すると思料する外国人を「容疑者」と呼ぶ。また、犯罪捜査規範及び犯罪捜査共助規則においては「容疑者及び捜査資料その他の参考事項」との表現も用いられている。また、被収容者の懲罰に関する訓令(法務省矯成訓第3351号)では、反則行為をした疑いがある被収容者等(被収容者(刑事施設に収容されている者)、労役場留置者及び監置場留置者をいう)を反則容疑者としている。
  2. ^ 逮捕の要件を満たさない場合や逮捕の要件は満たすが逮捕をせず在宅で取り調べるとの判断を捜査機関がした場合。

出典

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  1. ^ 渡辺洋三「法とは何か新版」62ページ
  2. ^ 『記者ハンドブック 新聞用字用語集』(第13版)共同通信社、2016年、539-540頁。 
  3. ^ 強制わいせつ報道「山口達也メンバー」にネットでは「暗黙のルール」と指摘。実際は… - 籏智広太、瀬谷健介、BuzzFeed News、2018年4月25日
  4. ^ 「山口メンバー」報道から振り返る、芸能人呼称の歴史 逮捕・書類送検で各社対応は?弁護士ドットコム 2018年4月29日

関連項目

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外部リンク

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