LIFESTYLE / TRAVEL

日本のものづくりを次代につなぐ3つのストーリー【手仕事に出合う旅 vol.1】

「日本の手仕事を守り、育て、未来に残す」。スタートラインは異なるものの、目指すところは同じ。熱い想いを込めて集めた逸品に出合える3つのショップを巡る。

【紡ぎ舎】「ものづくり」に寄せる作り手の思いを伝えたい

造形の美しさを感じる塚崎愛(長野・大町)のリム皿と竹俣勇壱(金沢)のステンレスカトラリー。

人口わずか2,500人の長野県小谷村で、増富康亮・永子夫妻が営む紡ぎ舎は、国内で作られた日用品と暮らしの道具を扱う店。とにかくセレクトが秀逸で、見ているだけでも心が躍る。日本のものづくりをもっと知りたい、広めたいという思いがストレートに感じ取れる場所だ。二人とも海外勤務が長く、日本のものづくりの素晴らしさを海の向こうで感じていたという。会社を辞めて帰国したとき、“もの”を扱う仕事をしたいと考え、半年ほどかけて青森から九州まで作り手を訪ねて回った。最初は口数少なかった職人たちが、打ち解けるにつれて、ものづくりに寄せる思いやその土地の気候風土や歴史との関わりを語り出した。その時の感動が創業の原点。二人にとってものづくりは「人と人をつなぐもの」なのだ。

ミニマルな美しさと日用品としての使いやすさを兼ね備えた木下宝(富山)のグラス。

日本各地を訪れて探してきた商品は、まず自分たちが購入して使ってみる。見た目の美しさだけでなく、実際に使えるもの、自分で使ってみてよかったものだけを選ぶ。だからこそ紡ぎ舎のセレクションは、スタイリッシュで使いやすく、それでいて時代に合った便利なものが多い。手にするだけで日々の生活を豊かにしてくれるのだ。

築150年の土蔵を店舗に改修。雪の重みに耐えられるよう柱の間隔が狭くなっている。

紡ぎ舎(つむぎや)
長野県北安曇郡小谷村中土5307-2
Tel./050-3718-2301
https://tsumugiya.jp/

【SAMNICON】未来につながるライフスタイルを提案するギャラリー

窓の外の景観との一体感が感じられる家具は、北欧の影響を受けたスタイリッシュなデザインと日本の伝統技術の融合。

インテリアや生活用品のデザインから、ホテルや店舗の空間設計、オリ��ナル商品の企画開発、スタイリング、ブランディングまで、とにかく幅広い分野の仕事をこなすデザイナーの宇南山加子。2008年から東京の下町、蔵前のセレクトショップSyuRoで、日本の職人技を生かしたオリジナル商品や五感に響く生活用品を扱ってきたが、数年前に、自然に包まれた暮らしを求め、自身の活動拠点を長野県御代田町に移した。2023年5月には、自宅の横に新たにギャラリー・SAMNICONをオープン。オリジナルブランドの食器やインテリア小物など、暮らしを豊かにするアイテムに加えて、パートナーの松岡智之がデザインし、全国各地の家具メーカーとコラボした家具も並ぶ。

緑に囲まれたSAMNICON。名称は禅の言葉、作務(SAM)と而今(NICON)にちなむ。

目指しているのは商品を販売するショップではなく、日々の暮らしとのつながりを示しながら、ライフスタイルをデザインするギャラリーだ。宇南山にとって、ものづくりは「人にきっかけを与えるもの」。失われつつある日本の伝統文化、職人の後継者不足、エネルギーや環境の問題などを提起しながら、この場所を通じて、次世代に継いでいけるような丁寧な暮らし、未来に向けた意味のある暮らしを提案している。

ギャラリーに展示されたアイテムからは日本のものづくりへのリスペクトが感じられる。

SAMNICON
長野県北佐久郡御代田町塩野482-10
Tel./050-1288-9340
https://www.instagram.com/samnicon_miyota/

【中川政七商店】全国のものづくり企業とともに日本の工芸を元気にする!

本店には創業の原点である奈良で培かわれた暮らしかた、生きかたに触れられる商品が並ぶ。

Photo: Satoshi Asakawa

江戸時代前半に黄金期を迎えた麻織物・奈良晒(さらし)の問屋として創業し、需要が激減した明治時代には廃業の危機を乗り越え、創業300年を数える中川政七商店。ものづくりの栄枯盛衰を見てきた企業のビジョンは「日本の工芸を元気にする!」こと。全国のものづくり企業や職人たちをサポートしながら、800を超える作り手をネットワーク化し、ともに開発・製造したオリジナル商品を販売。今や全国に60店以上を展開する。

春日大社や東大寺にも近く、古都奈良の風景に溶け込む「鹿猿狐ビルヂング」。

Photo: Satoshi Asakawa

1985年に仕事場の一角で始めた麻小物の小売店「遊 中川」が、今に続く生活雑貨の店・中川政七商店のルーツ。2021年4月には、その創業の地に新たな拠点「鹿猿狐ビルヂング」をオープンした。中川政七商店のロゴにも描かれている奈良のシンボル「鹿」、奈良初出店の猿田彦珈琲の「猿」、代々木上原sioがプロデュースするすき焼き店の㐂つねの「狐」が集結した複合施設だ。1・2階を占める中川政七商店 奈良本店は、蚊帳織のふきん、奈良一刀彫、赤膚焼など、奈良の特産品を含む、選りすぐりの商品約3千点を揃える。祖業である麻織物の手績み手織りのワークショップなども開催し、手仕事の歴史と伝統を次世代に伝えている。

本店限定の刺繍入り、麻の風合いを活かしたオリジナルハンカチ。

中川政七商店 奈良本店
奈良県奈良市元林院町22 鹿猿狐ビルヂング
Tel./0742-25-2188
https://nakagawa-masashichi.jp/shikasarukitsune

Text: Yuka Kumano Editor: Sakura Karugane